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『そもそも「論理的に考える」って何から始めればいいの?』深沢真太郎|数学の主役は、計算ではなく論理だった

思考法・問題解決 深沢真太郎
約7分で読めます

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『そもそも「論理的に考える」って何から始めればいいの?』
目次

「今から1分間、割り算について考えてください」。そう言われたら、あなたの頭はすぐに動きますか。

本書の主人公・常盤サオリは、この手の指示でいつも固まります。29歳、広告代理店に勤めて7年目。仕事はそつなくこなせるのに、「ちゃんと考えて」の一言で頭が真っ白になるタイプです。

物語の起点は、大阪出張の帰り道です。仕事のミスで取引先の宣伝部長に深く頭を下げ、今後の関係にも不安を残したまま謝罪を終えたサオリは、重い気分で新幹線に乗り込みます。

隣に座ったのが、数学を専攻する大学院生・浅野優斗、23歳。この2人が車内で交わす会話だけで、本書は最後まで進んでいきます。

著者はビジネス数学の専門家、深沢真太郎さん。5,000人を超えるビジネスパーソンを指導してきた実績を持つ人です。それなのに本書には、数式が一つも登場しません。タイトルが示すとおり、扱っているのは「論理的に考える」という行為そのものの始め方です。

図解

こんな人におすすめ

サオリの弱点は、この3つのどれにも当てはまります。読んでいて刺さるのは優斗の説明よりも、サオリの失敗のほうかもしれません。

数学の主役は「論理」であって、計算はただの作業

本書がまず突き崩すのは、私たちが数学に対して持っている思い込みです。多くの人は数学を「数字と計算の科目」だと考えます。ですが著者に言わせれば、数学の本体は論理であり、数字や計算はその論理を運ぶための道具にすぎません。

「数学の主役は『論理』です。論理的に考え、物事の構造を把握し、問題の解にたどり着くための訓練をする学問。それが『数学』なのです」(本書コラム2より)

この見立てを受け入れると、視界が変わります。数学が苦手だったのは計算処理でつまずいていただけで、筋道立てて考える力とは別問題だった、ということになるからです。

実際、本書に出てくる逆算・反例・背理法・消去法・秘書問題は、どれも計算をほとんど必要としません。数学コンプレックスを抱える読者にとって、これは地味に効くメッセージです。

「数字が苦手だから論理も無理」という自己診断を、丸ごと外してくれるからです。

ここで編集部として一つ留保を挟んでおきます。本書が扱うのは、あくまで「考え始める」ための最初の一歩です。変数の多い大企業の戦略設計や、厳密なロジックツリーの構築といった高度な用途には、正直シンプルすぎます。

むしろそうした技法に進む手前、思考のエンジンをかける段階に特化した一冊だと捉えるのが正確でしょう。裏を返せば、構造化思考をすでに実務でこなしている人には物足りなく映るはずです。

新人研修や、思考の型そのものを持たないメンバーへの導入書として使うほうが、効果を発揮する一冊だと思います。

物語は全5章、20個の「考えるコツ」で組み立てられています。考え始める、話し合う、決める、発想する、問題を解く。この並び自体が、思考が実際に動く順番をなぞる構成になっています。以下、編集部が特に手元に残したいと感じた技法を拾って紹介します。

迷ったら「ゴールから逆算する」

サオリに出された最初のお題は、3つの数字を使った掛け算クイズでした。順番どおりに解けば計算は3回必要になります。ところが優斗は、最後の掛け算に使う数字がゼロだと分かっているなら、その手前の計算はやるだけ無駄だと言います。

3回のはずの計算が、1回で片づく。

このコツは、資料作成にそのまま応用できます。データをかき集めてからスライドを組み立てるのではなく、まず「上司が最終的にうなずく1枚」を仮に置いてしまう。

その仮の結論を支えるのに足りないデータだけを、あとから取りに行けばいい。逆算の目的は、余計な作業を増やさないことにあります。ただし、この技法が機能するのはゴールの輪郭がある程度見えているときに限られます。

ゴール自体が定まっていない探索的な仕事では、逆算だけでは前に進めません。

もう一つ、優斗がサオリに見せるのが「線」のたとえです。

「線でつなげることがロジカルに考えていることだと、ぼくは認識しているんですよ」(本書より)

線の引き方には二通りあります。前提から結論まで一本の筋を通す演繹と、複数の事実を束ねて結論に向かう帰納です。線が1本しかない主張は、その1本が崩れた瞬間に総倒れになります。

逆に、性質の異なる根拠が3本そろうと、聞き手はもう反論しづらくなる。「根拠は3つ用意しろ」という定番の指導を、作法ではなく力学として説明しているのが、この章の効いているところです。

似た発想は情報整理にも顔を出します。切り口が一つなら箇条書きで十分ですが、切り口が二つ以上重なった瞬間、箇条書きは重複や漏れを隠してしまう。本書は車内販売のメニューと、100人規模のアンケート集計を例に、表へ組み替えるだけで見えていなかった数字が浮かび上がる様子を見せます。

反論を崩す技術と、無理にでも決め切る技術

会議で「絶対に〜だ」という強い断定にぶつかったとき、感情で言い返すとたいてい泥沼になります。本書が渡す道具は二つ。反例は「そうならない例」をたった一つ示すだけで、断定を成立させなくする方法。背理法は、相手の主張をいったん正しいと認めたうえで、その先に生じる矛盾を突く方法です。

「このシステムを入れればミスは絶対にゼロになる」と言われたら、頭ごなしに否定せず、「本当にゼロになるなら、二重チェックも研修も要らなくなりますが、それでいいですか」と返す。

相手の主張を否定していないのに、相手の理屈のほうから崩れていく。対立の形を取らずに矛盾だけを可視化する、静かなやり口です。

決める場面でも、本書の立場は一貫しています。判断基準が複数あるままなんとなく選ぼうとするから、人は迷う。基準を一つに絞るか、複数の基準に重みを付けて数値化するかのどちらかだ、と。

美人度や相性のような、およそ数値になりそうもない要素まで係数で処理してしまう姿勢には、正直なところ賛否が分かれるでしょう。それでも「正解のない場面でこそ、無理にでも決め切る力が要る」という著者の割り切りには、現場を知る人の説得力があります。

もっとも鮮やかなのは消去法です。自分の案の魅力を語るより、「他に選べる道がない」と示すほうが強い説得力を持つ。競合の出方をマトリクスで整理し、取れない選択肢を一つずつ削っていく。最後に一つだけ残った案には、反論の余地がほとんど残りません。

ここは使い方に注意が要ります。反例や背理法は正しく使えば強力ですが、多用すると「屁理屈で人をやり込める人」という印象を与えかねません。会議の空気を壊さない範囲でとどめる節度も、実務では欠かせない技術です。

発想は「逆」から生まれる

第4章のテーマは発想です。ここで本書は、「センスの良し悪し」という曖昧な話を、数え方の問題に置き換えてしまいます。5人から4人を選ぶ組み合わせを正攻法で数えると面倒ですが、「選ばれない1人を選ぶ」と裏返せば答えは一瞬で出ます。

「斬新さ」の定義も同じ発想です。優斗は、100人いたら99人がやらない考え方を斬新と呼びます。基準さえパーセンテージで置いてしまえば、斬新さは才能の有無ではなく、狙って作れるものに変わる。

消せないはずのボールペンを消せるようにした、というよく知られた逸話も、この「裏を返す」操作の一例として位置づけられています。

天気予報士のくだりも印象的です。的中率20%の予報士の予報を、そのまま逆に読み替えると、的中率80%の情報源に変わってしまう。一番当たらない人が一番役に立つ情報源になり得るという逆転は、「使えない」情報を切り捨てる前に、裏返して使えないか一度疑う価値を教えてくれます。

第5章の秘書問題も、この延長線上にあります。次々に現れる候補者について、その場で採否を決めなければならない状況で、最初の1人は無条件で見送り、あとの候補を測る基準として使う。

2人目以降で、その基準をわずかでも上回った瞬間に即決する。採用面接に限らず、店選びや取引先選びにも応用できる考え方です。最初の1人を切り捨てるのは薄情に見えますが、基準を持たないまま「なんとなく良さそう」で選び続けるほうが、結局はハズレを引く確率が高くなる。

本書はそう言い切ります。

ただし、これらの発想法はあくまで「思いつく速度」を上げる技術です。思いついたアイデアが実現できるかどうかまでは保証してくれません。出てきた案の検証には、結局また別の思考が必要になります。

本書の結論は、論理と発想を対立させないことにあります。線を丁寧につなぐ力と、線の外へ跳ぶ力。ロジカルシンキングの解説書はどうしても前者に偏りがちですが、本書は最後の1章を丸ごと発想に割くことで、そのバランスを取り戻そうとしています。

今日からできる3つ

1. 会議アジェンダの「〜について」を消す 「新規事業について」ではなく、「20代女性が毎日使いたくなる機能を3つ決める」まで具体化する。曖昧な問いには、曖昧な議論しか返ってきません。

2. 資料を作る前に、結論のスライドを1枚だけ仮に置く データ集めはそのあとです。仮の結論を固めてから、それを支えるのに必要な数字だけを取りに行きます。

3. 反論したくなったら、口を開く前に「もしそれが本当なら何が起きるか」を一つ数える 矛盾が見つかれば、それがそのまま発言になります。見つからなければ、認めるべきは相手の主張のほうです。

新幹線を降りたサオリは、上司に大阪の件を三段論法で筋立てて報告します。変わったのは能力ではなく、考え始める場所を知ったことだけです。次に「〜について」で終わる会議の案内を見かけたら、そこが本書の出発点になります。


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『論点思考 内田和成の思考』内田和成さん 本書はテーマ設定がゴール設定を兼ねる、という起点だけを示して終わります。無数にある問いの中からどれを解くべきかを選び取る技術まで踏み込みたい人の受け皿になる一冊です。

『問題解決力を高める「推論」の技術』羽田康祐k_birdさん 演繹と帰納を「線」という感覚で理解できたら、次に欲しくなるのは根拠を何本、どんな順序で並べれば結論に届くかという実務寄りの手順です。そこを丁寧に埋めてくれます。

『右脳思考』内田和成さん 「論理と発想は両輪」という結論に膝を打った人へ。ロジックだけでは説明のつかない勘や直感を、仕事の意思決定にどう組み込むかを掘り下げた一冊です。


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